いつまでもあめ玉を舐め続けていたら、口の粘膜がしわしわになった。まるでお婆さんのようね、とわたしの中の誰でもないだれかが笑っていた。虫歯なわけじゃないけれど、林檎を食べ続けていたら歯が軋んだ。甘い蜜に酔ったのはわたしの脳だけじゃなかった。
届かなかったことばは、わたしの中で凝固していた。腕から流れていた君の血は固まらなかったのに何故だろう、とわたしはわたしに問いかけた。固まったことばは君の涙で、溶けていくんだよ。そう、答えた。

ららら、唄って。るるる、寄り添って。(060216)

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気持ち悪くて目を覚ましたのか、腹部が痛くて目を覚ましたのかわたしは忘れてしまった。瞼を開けて初めて得た感情は、吐き気と腹痛だったことしか覚えていない。風邪を引いたときの鼻の匂いとか、まだだるい身体とか、重い腹部とか、指先まで神経がいってない手とか、すべてすべてわたしのだけれど、この感覚から逃げたい。こういうことが起きて、いつものわたしがどれだけ幸せに贅沢に生きていたのかがわかる。いつもそうやって思い知るのに、次の日にはすっかり忘れてしまうんだ。

我侭と贅沢を足したらきっと、わたしになる。(060218)

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無理してすきになるんじゃなくて、自然に、直感で、すきになりたい。そういう一般的な恋愛に憧れているわたしはまだ未熟なのか。それとも、いままで間違った道を歩んできたのか。周りの恋愛をしている女の子の話を聞いていると、どれだけ人と違う恋愛をしてきたのかを痛感する。人と違って当たり前だけれど、あまりに違いすぎる。こんな自分の話なんて、だれにも言えない。言いたくない。言ってしまったらきっと、軽蔑される。なにしてんの、って呆れられて叱られる。そんなのいやだ。

カフェインなしの恋愛(060219)

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ちいさな公園で、ふたりでいろんな話をして、手を繋いで、笑い合ったあの日は、幸せだと感じたあの夏は、もう遠い思い出になってしまった。まるで魔法にでもかけられたかのように赤くなったあたしの頬に君が優しく微笑んでそっとキスをした。別れ際、ダダをこねるあたしの頭を撫でてくれたあの手も、ぎゅっと抱しめてくれたあの腕の力強さも、すこし困ったような表情を浮かべたきみの顔も、すべてきれいにセピア色に色褪せてゆく。そしてやがて消えてゆくんだ。

あの夏の赤い日(060222)


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薄く紫がかった指先を見て嬉しくなったのはなぜか。歯がゆさ、遣る瀬無さ、不甲斐無さ、嫉妬、この暴力的な感情はなんだろう。汚いと思っていた感情がいまわたしの中にある。わたしの中に、自分でも知らない世界があるのかもしれない。そうやってわたしは生きてきて、自分のことをなにひとつ分からないまま死んでいくだろう。知らなくていいことまで知る必要は無いし、衝撃や負担は、少ないほうがいい。きっと、花が枯れ落ちた先の、暗い沼に、僕は引きずり込まれて死ぬだろうから。

悲しみを知る者、欲望を追う者(060226)


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大粒の雨の日。重いホルンを片手に、赤いランドセルを背負いながら傘も差さずにびしょ濡れになって歩いた。どうしてこういうときに限って誰も助けてはくれないんだと憤りを感じ、半べそをかきながら歩いたあの道やあのときの感覚は、今も僕の脳内にこびりついている。
忘れたくないことほど呆気なく忘れていって、忘れたいことほど忘れられずにいる。足掻けば足掻くほど、深く溺れていく気がする。背後の恐怖。煩い雨音。迫る影。いつまでも思い出に縛られて、前に進めない。自分から這い上がれるほど、僕はまだそんなに強くないんだ。


乾いた地面(060617)


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目を瞑ったら怖かった。見えていたものが見えなくなる恐怖だった。いつだって、見えているから安心していたんだ。でも本当は見えないなにかを見失っているようにおもった。形あるものだけが大切ではないはずだと、見ることばかりに囚われるなと、自分に言い聞かせていた。見えるからこそ目には見えない大切な何かを失いつつあるような気がしてならなかった。
目を閉じても何も得られず、目を開けてもいつもの風景があるだけだった。


神隠し(060617)


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ドクダミも、オレンジピールも、私の中を浄化してくれるわけではなかった。私の中の汚れた部分は、いつまでもぐちぐち化膿している。消毒液でもなおらず、涙なんかでも治らなかった。(私の涙じゃ、当たり前か。)
幸福の王子が流した涙は、きっとルビーになると思う。小さな私が流した涙は音もなく冷たい床に落ちて、原型を留めていなかった。そして、ルビーにもならなければサファイヤにもならなかったし、ましてやダイヤモンドにもならなかった。(私は純真じゃないから、当たり前か。)


不透明になりたい(060618)


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織姫と彦星、結ばれなきゃいいのに って思っていた。雨よ降ってしまえと毎年のように空を見上げていた。ちょっとだけ、不幸になればいいんだ。みんなが少しだけ、不幸になればいいとおもう。

七夕(060710)